約束をしない社長は信用しない

昨日、学生時代の友人が10年ぶりに連絡をくれました。

酷く人生に迷っているようで、急遽相談に乗ったのだが、どうやら、転職で失敗した、ということらしい。一流の大学から超大手企業に新卒で入ったが、最近、有望とされるスタートアップに入ったものの、入社前の期待と入社後の現実のギャップが大きく、今後どうすべきか迷っている、とのことでした。

話を聞いていて、「いや、弊社も同じような状況ですよ。というか、大企業とかベンチャーとか関係なく、どこもそんなものですよ。」という内容も多々ありましたが、「いや、それは…。今の自分はしないなあ。」という内容がありました。

それは「顧客や従業員などのステークホルダーに過度な期待を持たせる」ということです。

例えば、顧客に対しては、今のプロダクトはこのレベルだが、1年後には●●ができるようになる!と新機能開発を顧客に大げさに言って契約を取ってしまう場合。契約を取らず、ビジョンやロードマップだけ語る場合は良いと思いますが、実際に契約を取ってしまうと、顧客は、そのその1年後に、あれ、こんな感じでしたっけ?と落胆する状況を作ってしまう。

夢を語るのはベンチャーの必要実務であり、私はその点においては強いリーダーではありません。しかしながら、実際にその夢を実現するために、一歩づつ行動が伴っているのか?その足元を見た時、その足元が杜撰な会社が稀にあります。良い、悪いというより、経営観の問題ですが、顧客は将来の期待に対して契約をするのではなく、現在の価値に対して対価を払うために契約をするわけです。そこをはき違え、売上のプレッシャーから出来もしないことを出来る!と言ってしまう人は、結局顧客の信頼を落としてしまうと思います。

同じことは、従業員に対しても言えます。よく、ストックオプションが…とか、特別賞与が…とか、経済的な魅力を面接時に語り、優秀な人材を引っ張ってくる会社も多いと思います。しかしながら、実際には、収入を落としてベンチャーに入社したけど、なかなか給与が上がらない、こんなはずじゃなかった、という方もいるでしょう。面接時に過度な期待を持たせてしまうと、入社後の落胆が大きく、従業員が会社に対して信用をしてくれず、良い働きぶりをしてくれなくなります。

大事なことは、このような一挙手一投足は、組織文化の根底を為すものである、ということです。この文化を良しとするなら、それを良しとする従業員が集まり、それを良しとする顧客が集まります。良いか悪いかは別として、一日一日の行動が、その企業文化・企業風土を形作るのであり、一旦できてしまうと、中々変えることが難しいでしょう。

恥ずかしいことに、私も起業して1-2年は、「ステークホルダーに約束すること」という重みについて、十分に理解ができていない経営者でした。転機は、会社が経営危機に陥った時に、立ち上がり、「私が立て直します」と宣言した時でした。当時、周りからは、「本当に立て直せるのか?」と信じてもらえませんでした。そこで、私は具体的な再建計画を策定し、ステークホルダーに「約束」をしました。いざ、実行に移し、宣言通りに約束を果たすことで、周囲からの信用を真の意味で集めることができました。

これ以来、私は経営の中での「有言実行」の重要性を会社の中では説いてきました。最近、採用面接では、「会社の代表として〇〇は約束する。◇◇は約束できない。」ということを常々候補者には伝えるようにしています。

例えば、
「XX円以上の基本給は約束する。YYの条件が満たせた場合はYY円昇給する」
「AAの仕事の機会を提供することは約束する。しかし、会社の業績が悪化した場合は、AA以外の仕事に取り組んでもらう可能性もある」
というように、経済的な側面や業務内容については、特にはっきりと伝えるようにしています。

できないことは言わない。
やるつもりが無いことも言わない。
やる!と決めたことを宣言する。
できそうになかったら、すぐに修正して改めて宣言する。
やる!と決めたことを実行に移す。

当たり前なように見えることですが、人生の中で、最も大切な価値観の一つとして私はとらえています。