先日、とあるメンバーから次のような相談を受けました。
(内容は具体的でしたが、ここでは内容は包み、コンセプトだけ伝えます)
「自分の能力の無さが無くて、取引先(受注先、発注先双方)などに迷惑をかけてないか少し不安になりました。」
発注先についても、自分の仕切り力が至らない余りに、迷惑をかけているのではないか、、、仕事を断られてしまって事業に支障をきたのすではないか、、、そのような悩みを抱えていました。
私は、このような相談を受けた時は、新卒の時のエピソードを伝えるようにしています。
私は、新卒は株式会社電通のデジタルマーケティング部に配属されました。当時、最も全部署の中でも売上が伸びている部署で、非常に忙しく、複数のクライアントを抱えていました。そんな中で、私の一つの役目に「在庫広告枠の販売」というものがありました。今ではアドテクが普及しなくなりましたが、昔はこのような「枠モノ」と言われるノンプログラム広告がありました。例えば、2日後から1週間掲載する広告枠が売れなかった場合、私がいた部署にメディア担当が来て、損失を出さないように、値下げしても良いから売ってくれ!と頼みに来るわけです。準備期間が2日しかないわけですから、また、余ってしまっている在庫枠ですから、普通の広告主は買いません。しかし、閉店間際のスーパーの値下げされた弁当を毎日狙う人の様に、安くなった在庫枠を集中して買い付ける広告主がいました。私はその担当をしていました。
だいたい、交渉は夜21時くらいからスタートします。
私 :明後日から出す枠が余ってるんですけど、●●円で買いませんか?
顧客:そうだなあ。。もう50万円下げられませんか?
こんなやりとりを毎晩行うわけです。むこうは、足元を見て、1円でも安くことに必死です。私は、1円でも高く売ることに必死です。想像つくと思いますが、圧倒的に売る方が立場が弱いんです。
300万円→250万円→200万円…と、バナナのたたき売りのように、値下げ合戦が始まるわけです。
そんなある日。とある先輩が50万円まで値下げした広告枠を、私は100万円の値下げで食い止めお客様に売ることができました。また、そのお客様は、新規のお客様であり、取引を開始して関係値を作ることが大事で、私はその実績を作ることができたんだと、意気揚々に、「売れました!!」と夜中、喜びながらオフィスを駆け回りました。
その時でした。当時のボスが、「おいこらあああああああああああああああ!」と、怒号が飛び、私を呼びつけました。
正直、自分は、なぜ、怒られるのかがわかりませんでした。売上は立てたし、横にいた先輩よりも実績を出し損失を食い止め、新規顧客も開拓しました。自分は、自信満々に先輩の前に立ちはだかりました。
先輩:おい、宮崎。お前は何をしたんだ?
私 :自分は、〇〇に広告を初めて売りました!◆◆先輩よりも高く100万円で売りました!
先輩:売った事実は認めよう。素晴らしい。でも、お前はどうやって売ったんだ?
私 :値下げ交渉をして売りました!
先輩:値下げをする。それ自体は悪いことでは無い。でもな。お前は、1円でも高く売る努力をしたのか?100円の定価のものを50円で売る。お客さんが30円で買うというから30円で売る。こんなことは3流の広告マンがすることだ。そんなことをしたらどうなる?メディアが潰れて広告枠が無くなっちまうんだよ。良いか、宮崎、良く聞け。お前は電通マンなんだ。電通の人間は広告売ることが仕事では無いんだ。メディアの価値を守り、育てることが仕事なんだ。お前は一流の人間になりたくないのか。良く反省しろ。
頭をカチーンと殴られた気分でした。確かに、私は、お客様の言いなりになって、ただただ値下げするだけで交渉をしていました。それが、どんなことをもたらすのか、全く考えていませんでした。
それから数週間後。全く同じお客様に対して、全く同じ広告枠に売る機会が訪れました。1度100万円で買ってしまったわけですから、もはやそれ以上高く買うことは難しいです。
でも、自分は、絶対に120万円よりは下げない、と決めました。
顧客:80万円にしてくれない?
私 :いえ。ごめんなさい。今回は絶対に120万円でしか売れません。
その代わり、前回から+20万円で●●の分析作業をしてお客様に示唆のあるレポートを
作ります。これでご満足いただけないなら、今回は他のお客様に当たります。
私は、ここで初めて、お客様の要求に対してNo!を突き付けることを覚えました。
同時に、私自身の存在が、商流と言う中で、どんな役目を持つのか、ということを認識しました。
この経験から、私は、「ビジネスは上下関係ではなく、前後関係である」と考えるようになりました。
上下関係で捉えると、隷属するような形で、どうしても傲りと弱さが出ます。でも、実際のビジネスというのは、上下関係のようになりがちな場面でも、前後関係、つまり、持ちつ持たれつの関係があるわけです。お客様も、もしこの枠を変えなかったら商品の露出ができず、売上ることができず、在庫を抱えて損失してしまう。そう考えたら、多少の値上げも大丈夫なわけで、単にスタンスとして、強く言ってきているわけです。
前後関係でビジネスをとらえると、勇気が出ます。自分の商流の先にいる人たちのことを考えます。もちろん、自分が所属する組織に利益がもたらしているのか、自分の給料に見合っているのかはそうですが、それと同じくらい、その先にいる人たちに、経済的に潤わせているのか。そんなことを考えるわけです。
以上のようなエピソードを相談してくれたメンバーに話をしてくれたところ、ちょっとすっきりしました!と言ってくれました。伝わると良いな。
尚、上記のエピソードの話ですが、120万円で結局お客様は買ってくれたのか?はい、買ってくれました。そして、その後も何度も買ってくれ、10数年以上たった今でも連絡を取り合う、顧客という関係を超えた大切なパートナーとなりました。
尚、上司に、120万円で値上げして売れたんだと報告したところ、その上司は次のように言いました。
先輩:そうか。次は150万円だな(笑)
私は、この時、仕事とは何か、お金の流れとは何かを理解した気がします。
「ビジネスは上下関係ではなく、前後関係である。」
これからも大切にしたい価値観です。