初競りマグロに1億円の値打ちはあるのか?

本日から仕事始めの方も多い本日、豊洲市場では恒例の初競りが行われた。

日経の記事によれば、落札したのは記憶に新しい「すしざんまい」の喜代村ではなく、国内外に展開する「銀座おのでら」を運営するONODERA GROUPとのことだ。

日本最大の魚河岸・豊洲市場(東京・江東)で新春恒例の初競りが5日開かれ、青森県大間産のクロマグロが1匹1億1424万円の最高値で競り落とされ「一番マグロ」となった。2023年の初競りでつけた3604万円の3倍を超える値がついた。インバウンド(訪日外国人)による外食産業の回復を映して4年ぶりに1億円を超えた。

新年初日の魚河岸では、その年の商売繁盛を願って様々な魚介類が通常より高い価格で取引される。豊洲市場のマグロ初競りは、一番マグロの価格が毎年注目される。

今年の一番マグロは仲卸大手、やま幸(東京・江東)が競り落とした。同社が落札したのは4年連続だ。やま幸の山口幸隆社長は「重さと鮮度が競り落とす決め手となった」と話す。

競りを委託したONODERA GROUP(東京・千代田)が展開するすし店「銀座おのでら」で提供する予定だ。銀座おのでらでは7店舗で提供する。表参道の店舗で解体するという。坂上暁史世界統括総料理長は「今年は悲しいニュースから始まったが、食の力で日本を元気にしたい」と話す。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2836M0Y3A221C2000000/

過去最高額の3億円には及ばないもの、昨年は3,000万円ちょっとだったわけで、「億の壁」を超え、メディアも再び注目するであろう。

メディアによれば、2貫を1,000円ちょっとで提供すると言う。

1億円を1,000円で全て回収しようとしたら、10万人、20万貫じゃないと成立しない。どう考えても、寿司の値段に換算しては収支が合わない。

本当に1億円を提供する価値は企業にあるのだろうか?

今回は「マグロ初競りに1億円の値を付けるマーケティング効果」について考えてみたい。

企業の広報効果

まず思いつくのは、知名度のための広報的な効果であろう。

私が計算するよりも広報のプロが過去に実際に検証したこちらの記事をご参照頂きたい。

今回も同程度いくかはわからないが、PR効果の広告換算費で言えば、過去最高の3億円がついたときは26億円程度に上るということだそうだ。

実際、これを数年続けた喜代村は、認知度を上げ「お寿司と言えばすしざんまい」のポジショニングを築き上げた。

私は、別の見方で計算してみよう。過去、広告代理店に勤めていた時に、TV広告とYoutubeなどのインターネット動画広告に何回接触したら当該サービスは認知されるのか?といったことを分析していた。もはや細かい指標は覚えていないが、考えるべきはリーチ単価とフリークエンシー(接触回数)である。

こちらの記事によれば、15秒CMの場合、5~10回程度、短期間で接触させないと認知されないとされる。これはTVCMでもネット動画広告でも共通していたように思う。実際、ネット動画広告では、マッチングアプリやゲーム、クレジットカードの同じような広告が何度も何度も出てくる方も多いと思うが、それは視聴させる以上に認知させることを目的にしていると推察される。

ここに、リーチ単価、つまり接触させるのに必要な単価を考えてみよう。こちらの記事によれば、TVCMのリーチ単価は5円前後と言われている。

つまり、10回接触させて覚えてもらうとするなら、認知獲得単価は理論上50円だ。すると、1億円だから、1億円÷50円=200万人だ。つまり、日本人の2%に認知を取れる計算になる。すしざんまいのように、既に多くの人に知れ渡った会社の場合はそこまで効果が無いが、伸び盛り、イケイケの資本力があるONODERA GROUPにはマッチした手法だったのだろう。

とはいえ、そんな理論値通りに消費者は行動するわけではなく、実際はそんなに甘くは無いと思う。朝や夜のニュースで繰り返し特集されたり、TVやネットで記事になればなるほど接触回数も増えるため、確実に効果はあるといえよう。「元がとれているかどうか」は難しいが、競合他社にその機会を奪われるくらいなら…と考えるなら、アリなのかもしれない。

大間マグロのブランド効果

もう一つは、特にONODERA GROUPに限ったことではないが、大間マグロそのもののをブランド効果を底上げする効果はあるだろう。

「憶もするんだ~」というマグロがあること自体が、大間マグロの価値を底上げし、その辺のスーパーで売っている大間マグロの値段を高く設定されていても、”高い=手が出せないから欲しい”と思い、みんな「一度は食べてみたい」と需要を喚起させる。

実際、大間マグロを釣る漁師さんにも夢を与えることにもつながり、翌年の漁の士気にも強く影響するであろう。

個人的には、当該効果は、国内だけではなく、インバウンドマーケ全盛のNIPPONブランドにも好影響を及ぼしているのではないかと思う。NIPPON OMA TSUNA は BEST OF BEST であることを海外メディアも広く伝えてほしい。

憶円マーケティングの他の事例

マグロの初競りの手法を”億円マーケティング”と勝手に呼ぶことにしよう。

このような事例は他にはどんなものがあるだろうか。

ぱっと思いつくのはMZ・前澤社長の「1億円お年玉企画」とか、PayPayの「10億円還元キャンペーン」などであろう。

どれも、普通の人や中小企業には出来ない手法だ。”持てる人”のみができる”らしい”施策だからこそ意味がある。”億万長者”とか”億り人”とか”億ション”とか言われるのだから、日本人は、どうやら”億の壁”に対して特別な感情を抱いているのがわかる。1,000万円!ではだめで、9,000万円!でもダメ。”1億”と言った瞬間に数値の魔力を持つのだから、なんとも面白いものだ。

取り敢えず、寿司の小野寺が、今年一年、どんな伸びを見せるのか注目である。