「マーケティングは本屋で学べ」も、いよいよ第三篇ということで、中盤に差し掛かってきました。#2では、小さな本屋のレイアウトを研究すると、ターゲティングの概念がわかると説明をしました。今回は、店舗という空間ではなく、お店に入ってから買うまでという「流れ」に着目し、マーケティングで重要な「ファネル」の概念をお伝えしていきたいと思います。
本を買う行動をプロセスで考える
本屋は「本を買ってもらうこと」という当たり前の目的があります。つまり、どんなに良い立地で人が入っても、立ち読みばかりで本を購入してくれなければ売上に繋がらず、商売になりません。一方、顧客の視点からしたら、本屋に行けば必ず本を買う訳でもありません。つまり、
A. 本屋に立ち寄った人の数
B. 本を買った人の数
とすれば、
A > Bとなり、A-B =離脱した人の数、になります。
この離脱を細かく考えていくことをマーケティングの実務の世界ではファネル(じょうご)と言ったりします。
本を買う行動をプロセスで記述してみます。
①本屋の前を通り過ぎる
②本屋の中に入る
③目的のコーナーにいく
④一冊本を手に取ってみる
⑤本の中身をちょっと読んでみる
⑥別の本と比較してみる
⑦一冊に絞り、レジに行く
⑧購入する
一冊の本を購入するにしても、これだけ多くのプロセスが存在します。本屋の前を通り過ぎる人を100としたら、本を購入する人は何人いるでしょうか。ここでは、便宜的に、下記の4ステップで考えることにします。
①本屋の前を通り過ぎた人の数
②本屋の中に入った人の数
③本を手に取った人の数
④本を買った人の数
という4つのフェーズで考えてみると、ファネルの構造が見えてきます。
マーケティングでは、このように目的別にファネルを作り、各ステップの中でどこを注力しなければいけないかを考えます。
例えば、①→②の率を引き上げるにはどんな施策が必要でしょうか。例えば、店舗の壁を透明にして中が見えるようにする、入り口のドアを開けて開放的な空間にする、などの施策が考えられます。
②→③の率を引き上げるにはどんな施策が必要でしょうか。手に取ってもらうために、例えば手書きのPOPを作って「店主オススメ!」と書くことや、手に取りやすい目線に本を並べるなどの工夫があるでしょう。ファネルを可視化すると、改善するべきアクションが必然と見えてくるようになります。
このファネルという考え方は、マーケティング(に限らず様々なビジネス)のあらゆる領域で使用される考え方です。例えばInstagramを活用したインフルエンサーなら、フォロワー数を獲得することが目的でしょう。その場合、
Instagramにアクセスした人の数
→自分の投稿を見た人の数
→いいね!した人の数
→フォローしてくれた人の数
が考えられます。このようにステップをファネルによって分解して考えることで、適切な施策を打てるようになるんですね。
ファネルの裏にある「気持ち」を考える
これまで説明したファネルはあくまで行動ベースのものでした。ここで、もう一度本を買うステップを考えてみます。
本屋の前を通り過ぎる
→本屋の中に入る
→本を手に取ってみる
→購入する
ここで、今度は、行動だけではなく、その時に人がどんな気持ち、考えであるかを考えます。
・本屋の前を通り過ぎたときは、「あ、時間あるから本屋寄っていこうかな…」「きれいな本屋だなあ」「店員さんかわいいなあ」
・本屋の中に入ったときは、「マーケティングの本を欲しいなあ」「初心者でも理解できる本が欲しいなあ」「通勤中に読める本が欲しいなあ」
・本を手に取ってみたときは、「めちゃめちゃ図が多くてわかりやすいなあ」「有名な人が書いているなあ」「本を買おうかなあ」
などなど、様々なシーンが考えられますよね。ここから、ファネルの裏側にある気持ちの変化を捉えることが重要です。本屋に入った時は、そもそも本を買うかもしれないし買わないかもしれない気持ちから、この本を買おう!という気持ちに変化が起きています。
これは、Webマーケティングでも一緒です。SNSで考えれば、Instagramにアクセスしたときは、それとない感じでアカウントにである。投稿を見て、面白い!可愛い!と思ってから「フォローしよう!(またこの人の別の投稿を見たい!)」という変化があります。この気持ちの変化を押さえながらアクションを考えることで、より適切なマーケティングの施策を打てるようになります。
経験ですが、計測できる数値ベースでファネルを作ることのできる人は多数いますが、その裏側にある気持ちの変化までイメージできる人、より適切な言葉で言えば離脱の仮説をしっかりと立てることのできる人は業界の中でも余り多くありません。これは能力というよりも、思考の癖のような側面が大きいのではないかと思います。特に、コンサルティングのようなポジションで業務をされている方は、「どんな人が」「どんな行動を起こしたか」に加えて「どんな気持ちで」という軸を加えると、奥深い示唆に繋がりやすく、成果が出やすくなるのではないかと思います。
以上、#3では、ファネルの概念と分解したときの視点を説明しました。次回は、本屋という空間と本という商品の関係からマーケティングを考えていきます。お楽しみに!